コン / by co cayu

聞けなかったこと、というのはいつまで経ってもわたしを柔らかく揺さぶり続ける。あれは一体、何だったんだろう。

わたしもかつて、女子高生だったことがある。ド田舎のJK、ストパーかけて眉毛を細くし、学校のジャージを独特に着こなすどこにでもいる“日向かぼちゃ”(藩で言うなら薩摩おこじょ)。この頃、まだ絵は描いていない。

クラスに喋ったこともない男子がいた。いつも団子みたいになって無邪気にはしゃぐ他の男子を、笑って見守っているような大人しい子だった。名前は前田くん。その前田くんのことを、いつからかみんなが「前コン」と呼び出した。前、は前田の前だろう。でも、下の名前に「コン」はつかない。そもそもコンが付く名前なんてものは林家こん平の専売特許。コンってなんだ。小首をかしげながらも、こちらはこちらで『同じクラスで付き合ったはいいがすぐ別れてしまって気まずい男子』に気を取られていたので、そこから「コン」を深く考えることはなかった。そうして卒業の日を迎える。

大学進学後、関西に住む地元の友人たちと定期的に集まるようになった。そこで何となく、「前田くんいたやん、前コン。あの”コン“って何なんかなぁ?」と投げてみた。

「前田コンプレックスやろ」

「み、名字にコンプレックスくっつけるとか鬼すぎる。コン、コン…コンサートちゃう?」

「コンビナートやろ」

「前田紺谷や」「別のクラスメイトの名前くっつけてどうするん」「ぎゃははは」

ひどい大喜利に終わった。

「曖昧は妄想の源」という言葉がある(いま作った)。こうして16年経った今、前田くんはまんまと喋ったこともないわたしのブログの餌食にされるほど、妄想の対象に成長した。大したものである。そういえば直島に住んでいたとき、「岩田コンフェクト」という小さなお菓子屋さんがあった。もしかして、コンフェクトだったのか。でも前田くんちってラーメン屋じゃなかったっけ。

いいか、このブログを読む前田くんを知る同級生のみんな。コンの由来を知っていたとしても、わたしに教えてくれるな。知っても知らなくてもわたしには何も起こらない。知りたいとも思っていない。思い出すごとに、この妄想を楽しむつもりだ。そして、前田くんに伝える必要もない。連絡が来ても困る。くれぐれも、内密にしてくれよな。