「失礼します」
入室すると、そこにはかっちりとスーツを着こなした二人の面接官。どことなく 爆笑問題っぽさが漂う組み合わせで、とてもバランスが取れた二人だ。
「どうぞご着席ください。本日は◯◯の面接にお越しいただきましてー」
なるほど、太田が進行役、田中は記録係らしい。田中というか 濱田岳 に近いような気もする。
「…です、ではこちらの方から自己紹介と志望動機をお願いします」
妄想が捗ったせいで、太田の説明をほぼ聞かぬままに気づけば戦いの火蓋が切って落とされていた。(散漫)
ではどうぞ。
「 はい、わたしはこれまで大手証券会社に勤務しており、金額の大きな取引を中心に…」
次の方。
「秘書検定と語学力を生かし、長らくマネジメント業務に関わって参りましたが…」
では次の方。
「そうですね、立地、時給、仕事内容が魅力的 だったので」
さてどれがわたしでしょう。
過去の経験から、なるべく注目を浴びぬように当たり障りのないことを伝えた。面接官がくまなく履歴書をチェックでもしない限り、ただの転職歴の多い30代女性で終わるはずだ。選ばれたいのか選ばれたくないのか、複雑な年頃なのである。
ところが次の質問で流れが大きく変わった。
「この中で、販売業務や時間帯責任者経験のある方がいらっしゃったら、その内容を伺いたいのですが」
すると、まさかの
「いえ、ありません」
「 わたしも社会人になってからは、ありません」
小粥さんはいかがですか?
「…あります」
あるんだよこれが。
「では、その内容を教えていただけますか?」
一同注目。
「えっと、はい…新卒入社したSターバックスコーヒー で時間帯責任者を。学生時代含めると4年ほど」
「あ、学生時代から責任者をやられていたわけですか」
「はい、あとはスペインバルを開業して店舗管理と運営を」
「スペインバル、ご自身で?」
「 त्यो सहि…」
もう日本語で喋りたくなかった。経歴に嘘をつくわけにもいかないが、爆笑問題の二人にロックオンされてる感が会議室に充満している。息が苦しい。
「小粥さんは接客経験が豊富でいらっしゃいますが」「元々芸術系の学校に行かれていますけど」「ネパールに毎年行かれているとのことですが」「チベット仏画というのは実際に現地で」
チベット仏画。質問が求人内容とかけ離れてゆく。 ずいぶん遠くまで来たもんだ。
「以上で面接は終了です。ありがとうございました」
15分ほどの面接、疲れた。ぞろぞろとエレベーターになだれ込んだ応募者同士が、「お疲れ様でした」「はは、緊張しましたね」となんてことない会話を交わしている。
そのうちの一人が、「仏画か…わたしなんて本当に平凡な人生だから」とぽつり呟いた。
丁度エレベーターがチン、と一階に到着し、「みなさん博多駅方面ですか?」と誰かが重ねて聞いたので、誰もその平凡な人生について触れなかった。
ビルを出てそれぞれの方向へバラバラと歩き始める。思いがけず集団面接を荒らしたあとの、夜風が冷たい。
太田は言った、
受かった方にのみ、13日までにお電話差し上げます。
南無