カトマンズはすこぶる空気が悪い。四六時中マスクをしているにも関わらず、わたしもすぐに喉をやられてしまった。
「喉の調子が悪いんだよね」
そう言うと、行きつけの喫茶店のみんながこぞって知恵を出してくれた。
「薬局に行って、症状を言って薬を貰うんだ」「たくさん貰わなくていいよ、2日分ぐらいだけとりあえず買うんだ」「飴もあるよ」「白湯を飲みなさい、白湯を」
と、そこで前歯が2本だけ残っている寡黙なダイが口を開いた。
「これを口に含んでおきなさい」
一同フリーズ。
差し出したのは一見、木の枝。周りのネパール人たちがあからさまに怪訝な顔をし、よくないよ、薬局行った方がいいよ、と耳打ちしてくる。ダイ、なんなのこれ?漢方?それとも(法的に)アカンやつ?
ダイは質問に答えず、「少し噛んで、口にずっと含んでおけば治る。寝るときも。これあげるから、やってみなさい」まるで秘儀を教える師匠かのような仰々しい顔をしている。
「分かった、ありがとう」
わたしが平らな目をしているのを察して、ダイは試しにその枝の欠片を口に含んでみせた。ほら、どうだ。
他のネパリは依然として首を横に振っている。判断が難しい。とりあえずお礼を言ってその木の枝を受け取り、仏画制作へ向かった。
「先生、見てこれ。喉にいいんだって」
とディパック先生に見せると、
「ん?なにこれ。さっさと薬局行きなさい薬局!」と一掃されて終わった。
木の枝は、まだポケットに入っている。