廊下を歩くついでに、掲示板に貼られた献立表に目をやる。そこには一週間ずつの献立が書かれていて、文字数の都合なのか何なのか、料理名がざっくりとしか書かれていない。例えば、「トマトソースがけ」「和えもの」「ソテー」とだけ、書いてある。一体何にトマトソースをかけて、何を和えて、何をソテーしているのかは分からない。そして表のどこかには必ず、当然のようにムニエルがある。ムニエルが無かった週などない。そしてムニエルの次の日は大体「磯辺焼き」だ。もう分かっているんだ。
実は先日、病室に栄養士が訪ねてきた。さらに「病院食について患者さまのご意見をお聞かせください」と言うではないか。おお…時は来たり。よし、言わせてもらおう。もうムニエルはいらん。金輪際ムニエルをやめるんだ。今度ムニエルを出してみろ…はやる気持ちを抑え、わたしはまるでがん治療センターの患者を代表するかのような顔つきで言った。
「この病院はなぜ、こんなに頻繁にムニエルが出るのが不思議です。だから、ムニエルはもう結構です」
これはわたしたちの願いです。(献立に)入れない、作らせない、(病棟に)持ち込ませない。非ムニエル三原則。
すると栄養士は顔色ひとつ変えずこんなことを言ってくる。
「では、丼もののほうがいいですか?」
丼もの?いや、丼ものでもいいけど。なに、ムニエルか丼もの、どちらかになるってこと?丼ものに限定されるとそれはそれで、なんというか。いや好きだけど丼もの。予想外の言葉が返ってきたので「うーん、まあ普通の…小鉢とかお味噌汁とかでいいです」としか言えなかった。そうですか、と栄養士は熱心にメモを取っている。「小鉢希望」。いや、小鉢希望というか…
まぁいい、ムニエルのことは伝えた。来週からの献立がどうなるか、見ものである。もしかすると、丼ものと小鉢のオンパレードかもしれない。