picnic / by co cayu

冷蔵庫にあったハムとレタスを挟んだだけのシンプルなサンドウィッチと、薄く切ったリンゴ、そしてココアを魔法瓶に入れ、家を出る。待ち合わせは森に続く小道の入り口で、まだ誰も来ていない。イヤホンでループされっぱなしの、あの有名なジャズの曲が三回再生されたあたりで、ようやくアナグマがモタモタ歩いてきた。「やあやあ、待たせたな」

「遅かったじゃないか。森の天気は変わりやすい、早くピクニックを始めよう。それで、マレーグマは?」

「マレーグマは昨日から連絡がつかない。巣にもいなかったんだ」

「どうして」

「知るもんか。おおかた、ヒグマの誘いを断れずシャケ獲りを手伝わされているのさ」

「ふうん」

「それよりも、その魔法瓶の中身はなんだい?なんだか、甘くていい匂いがするけど」

「ココアだよ。飲むときにマシュマロを乗せるといい」

「へえ、そりゃいいや。最近、ニンゲンが森に来ないから動物たちはのびのびしてるよ。毎年春になると、木の根を踏んづけたり、花を摘んだり、ゴミを捨てて帰っていくのに。こうも静かだと、気味が悪いぜ。何かあったのか?」

「いまはとにかく家にいろと言われているんだ」

「戦争か疫病」

「まぁそんな感じだね」

「ふうん。ニンゲンは忙しいな。よし、このあたりにしよう。早くココアを飲みたいんだ。へへ…なんだこりゃ、甘すぎる。こないだのバター茶のほうが良かった」

「そりゃ悪かった。なあアナグマ、キミはなにか困ったことはないかい?」

「ないね。困ったと思ったことも、何かが足りないと思ったこともない。それに、俺たちはニンゲンを羨ましいと思ったことはないぜ。生まれ変わっても、“毛むくじゃらの四本足”を希望する。そういうものだ」

「ふむ」

「疫病なら俺たちにも伝染るかもしれない、しばらく森には来るな。ニンゲンの問題なら、ニンゲンで解決するんだ。森も川も動物たちも、ずっと昔からニンゲンなしにその完全な世界を営んでる。それを忘れるなよ」

アナグマは甘すぎる、喉が渇くと文句をいいながらココアを何度もおかわりした。

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