最近、甘鯛の観察をしている。
いつも通りがかる割烹の店先に水槽があって、その中に甘鯛が2匹ほど泳いでいるのである。何を隠そう、わたしは甘鯛の顔が大嫌い。酒蒸しも塩焼きも最高だけど、あの顔だけはダメ。時折、玉虫みたいに光る肌もイヤ。我ながら酷い言い様である。わたしが甘鯛なら死にたい。じゃあどの魚の顔ならいいのかって、そりゃ、鰤とか(やかましいわ)。
甘鯛との出会いは18のときだった。
京都の花街、先斗町の割烹でアルバイトをしていた時のこと。九州の田舎から出てきた芋娘だったので、甘鯛などまじまじと見たことがなかった。京都では甘鯛のことを「ぐじ」と言う。深海にいるので釣り上げる時に苦しくてぐじぐじ鳴くからだとかなんとか、板前さんが教えてくれたことがあった。
ある時、大将が突然「ごめん、ちょっとぐじ持っといて!」と、バットからはみ出す甘鯛をパスしてきた。
「え?」
手元を見て、思わず叫んだ。
ギャー!変な顔!!
むむむ無理です、気持ち悪い!!と、そのままカウンターに投げてしまった。衝撃的だった。地球上にこんな顔の生き物がいたなんて。
これが甘鯛との出会いだった。結局その割烹では丸5年アルバイトをしたので、その間ずっと甘鯛を「無理です」と避け続け、見かけるたびに「あいつ、今日も変な顔してやがる…」と毒づいていたのであった。
それが時を経て、まさか福岡でまた毎日のように見かけることになるとは。何の因果か。勘弁してくれよ…と、はじめのうちは水槽を見ないようにしながら早足で通り過ぎていた。
だがある時、ふと「もしかしたら甘鯛、何か意味があってまたわたしの目の前に登場した?」と持ち前の運命論者的妄想を捏ねまわしてみたのである。きっと甘鯛は何かわたしに伝えたいことが…?ってそんなアホな。
とりあえず次の日から水槽の前を通る時は一度立ち止まって、甘鯛をスマホで撮影することを始めてみた。嫌いなものに積極的に触れ続けてみたら、人間どうなるのか。好奇心は時にストレスを上回ってしまう。自分の好奇心の強さを呪うのみである。
現在4日目、やっぱり変な顔…