旅の本 / by co cayu

旅の本を読んでいる。

もう12年も前に発売されたその創刊号を、近所のヴィレッジヴァンガードで立ち読みしたことを覚えている。近所のヴィレヴァン、は京都の烏丸御池にあった新風館の店舗を指す。意味もなく立ち寄っては、帰りにジラフのドーナツを買うのがお決まりだった。骨を埋めると誓った京都市をとうに離れ、12年後のわたしは故郷の病室にいて、気が利きすぎる元恋人が暇つぶしにと送ってくれたその雑誌の、まったく同じ創刊号を読んでいる。

旅のあいだは、どちらかというとあまり動かずその土地で「生活」するような過ごし方をしたい。そこで信仰されている神様を詣で、ローカルな店を選び、その土地の言葉で『ありがとう』を言う。それから自分の足でよく歩き、頭の中で地図を完成させてゆく。見たもの、聞いたものを書き留める。朝は太陽を、夜は月を眺める。どこへ行っても変わらない。旅に出たからといって、自分の愚かさも尊さも変わらない。旅が心の豊かさをもたらすわけでもなく、心が豊かであればどこへ行ったって豊かだ。そして自由だ。

public.jpeg